“一緒にいたいから”  『抱きしめたくなる10のお題』
         
〜年の差ルイヒル・別のお話篇


今年は随分と長っ尻で、
あちこちでいろんな被害も出したほど大変だった梅雨もやっと明け。
明けたと思ったら…というくらいの切り替えのよさで、
日本中が“暑い暑い”の大合唱。
夏日や真夏日では追っつかないほどの高気温になることを指す呼び方、
猛暑日なんてのがお目見えしたのをいいことに、
(?)
梅雨明けした途端にあちこちで記録したこと、
天気予報でもニュースでも、逐一報告されてもいたほどで。

 「この暑さってのは地球温暖化とも関係してんのかね。」
 「かも知れねぇって話はよく聞くけどな。」

北極の氷が随分と減ったらしいし、
北欧のフィヨルドで有名な氷河だって、
永久凍土って名前に反して年々解けてるそうだしよ、と。
大人が訊いたことへ はきはき答えただけでも大したものなところへ加えて、

 「でも、だからってことで“ご家庭でも小まめな節電を”とかさ、
  個人的なエコ活動を躍起んなって呼びかけるよか、
  それを呼びかけてるテレビの放送をこそ、
  昼間の3時間程も休止したら凄んごいエコになんだがな。」

だってよ、今の家電の中で一番電気食うのが、
テレビとPCとエアコンだっていうからな。
湯沸かしポットやオーディオは、
使わない時はコンセントから抜きましょうなんてな、
ちみちみしたことやるよか、うんと効果絶大だぜ?
………と。
確かにまあ ごもっともなご意見ではあるが、
子供なりゃこそテレビが観られないのは困るだろうにと、
大人がギョッとするようなことまで言ってしまえる恐ろしい子悪魔様の見解へ、

 「そりゃあ判らんでもないが、
  テレビは観らんなくたって…
  じゃあDVD観るとかPCで遊ぶとか、そっちへ流れるだけじゃねぇのか?」

大方、お前はTVにはあんまり縁がないってとっからの言いようなんだろうにと、
そこまで見抜いてのご意見を返してしまえるお兄さんも…なかなかやります。
それが証拠に、

 「〜〜〜〜〜〜。」

反駁の余地がないほど図星だったか、
不服そうにむうと口許尖らせてしまった坊やであり。
近頃 微妙に切れ長になって来た、金茶の瞳を据えた双眸が、
ちろりんと斜めに上がって、道行きの相棒を見上げたもんの、

 「? どした? 疲れたか?」

何なら先に部室に戻るか?
買い出しじゃんけんに負けたのは俺で、お前まで付き合う義理もなかろうにと、
これでも一応は気を遣った言いようをした葉柱だってのは、

 “…判ってるって。”

つか、言い負かしたぞという“してやったり”なお顔にならないところが、
却って咬みつき返す余地をくれないから困ったもんだと。
陽射しを弾いてますます軽やかな色合いの金の髪、
ふるると揺すぶり、いいんだ ついてく…というお返事とする。
いきなり過ぎて孵化が追いつかなんだか、
こういう風景につきものの夏の風物、
蝉の声が聞こえないのが異様な気がするものの。
燦々と降りそそぐ陽射しは、もはやすっかりと真夏のそれで。
青い色紙へ油を染ませたような、
バイタリティあふれる濃い色の、青い青いお空の下。
幼いながら…その虹彩が金茶という淡い色合いなのでと、
瞳を傷めぬように掛けていたサングラスも小粋な、
白地の半袖Tシャツに重ねた黒いタンクトップに、
ラインストーンが利いたハーフパンツという、
ざっくりした恰好もまたお似合いの。
何とも存在感のある愛らしい坊やは、黙ってたって人の眸を引く。
そして、
身長に差があってのしょうことなし、
歩幅が合わぬか、時折ぱたたっと小走りになったりもする小さなお連れさんが、
そうやって先に立ったり、わざとに見送ってから追いかけたり、
ただ歩くことさえ楽しくてしょうがないとはしゃいでいるのを、
まんざらでもないということか、口許こっそりほころばせ、
ほてほて歩く上背のあるお兄さんは、葉柱ルイという大学生で。
気温が30度越したら てんで使いものにならない、
ダメダメな大人のもーりんとは大違い。
日頃から親しんでいるスポーツへの精進のお陰様、
痛いほどという灼熱の陽射しが照りつけても、
特にダレることもなく、背条伸ばしてさっさか歩むところなぞ。
日頃、バイクを飛ばしてブイブイ言わせている彼だというに、
そういった“不良”とか“ヤンキー”とかいう人種とは、
もしかして、対極の存在なんじゃあなかろうかと思えるほど、
清々しくも凛々しかったりするから妙なもの。

 “そういや、凄んでたりするとことか、俺あんまり見たことねぇよな。”

なぁんて、今更ながらに気が着いてる小悪魔さんだったりもするのだが、
それはあのその、
あなたが、その幼さや愛らしい見栄えなのにもかかわらず、
そうなる前に易々と手玉に取って来たから
…じゃあないのでしょうかしら。(う〜むむ)
まま、今更な話はさておいて。
公平なじゃんけんで決めたこと、
食後のスィーツを買い出しにと、
近所のコンビニ目指して賊学大の構内から出て来た、
総長さんとそのお供の坊やだったのだが、
駅前の商店街へ入ったところが、

 「あ、ヒル魔くんだvv」

ぱたぱたぱた…という、
アスファルトを叩くような軽やかな駆け足とともに、
それは愛らしいお声での声掛けが聞こえ、
おやと振り返れば、
JRの駅のほうから来たらしい、見慣れた坊やがやって来るところ。
ちゃんとかぶってたお帽子が跳ねて後ろへすぐにも外れるほど、
ちょみっと まとまりの悪い黒髪を、甘い色合いに暖めて。
ふくふくの頬に潤みの強い黒々した双眸、
するんとした腕脚も可憐な小学生。
そちらさんもまた、
そのまま子供服のモデルをやっても通りそうなほどに愛らしい、
こちらの小さなとうがらし坊やのお友達で、
小早川さんチの瀬那くんではないかいな。
すっかりとご機嫌さんであるらしく、
にゃは〜っと嬉しそうに微笑って駆けて来たのへと、

 「何だどうした、珍しいな。」

他の奴なら皮肉でも言ってしぼませるところだが、この坊やだけは別格か、
それでも苦笑混じりに愛想を振れば。
そんなヨウイチくんのすぐ傍でやっと立ち止まり、
ビニール製のバッグを揺すって見せての大威張り。

 「今から進さんとプールなのvv」
 「…セナ。」

うや?と振り返った坊やの愛らしさに負けたか、
何でもないと口ごもった大柄なお兄さんだったが、

 “あれはきっと、プールに行くのだと言い直させたかったんだろうな。”

「進とだけか? 桜庭は一緒じゃないのか?」
「うんっ!」

そういや、ここのご近所には、
何と流れるプールも併設された市民プールがあると思い出しつつ。
後から遅れて追いついた、
結構な上背を誇る、学生アメフト界のスーパーエース、
進清十郎さんを…じいと見上げた子ヒル魔くんのみならず。
口に出しこそせなんだが、
葉柱も恐らくは同じことを思っただろう一言が。

「それって…。」
「?? なぁに?」
「……………おもしろいのか?」

同じ年頃じゃあないから、
全く同じような楽しみ方へは付き合ってくれないかもしれぬと、
そういう穏便な言い方で済むレベルじゃあなくの、

「進が一緒だと、競泳用のプールで、
 延々と真っ直ぐ真っ直ぐ泳ぎ続けんの見てるだけにならないか?」

何しろ、進といえば 知る人ぞ知る“トレーニング馬鹿”なだけに。
歩け歩けのお散歩デートや、
セナくんはほとんど おんぶとか腕へのぶら下がりになっている、
丘陵公園へのハイキングとか。
そういったお出掛けが主体な二人であることもまた、
知己の皆様には知れ渡っているほどで。
そんな野暮天なお兄さんとプール…?と、
そこは、このピリ辛坊やでなくとも
怪訝そうに訊き返してしまおうものだが。

 「桜庭さんと同じこと言うんだvv」

楽しそうに微笑ったセナくんで。

「でもよ、何して遊ぶんだ?」
「んっとねぇ、子供プールで潜ってロッカーの鍵とりっことか、
 抱っこしてくれての速い速いクロルとか、
 浮輪を持ってくれての流れるプールで漂流ごっことか。
 一緒に いっぱいぱい遊んでくりるのに♪」
「……漂流ごっこ。」

ごっことつく遊びに、この仁王様が参加しようとは。
そんなおっかない、もとえ、違和感のある話は滅多にないぞと言いたいか、
とんがらし坊やが、ついついリピートしてしまったほど。
口にした当の坊やはといえば、
“どーだまいったか”と精一杯にお胸を張っていて、

 「セナ。」
 「あ、はいvv 早く行きましょね、進さんvv」

炎天下にいつまでもいると、日射病になってしまいかねぬから。
かわいらしい麦ワラ帽子をそのおつむに乗っけつつ、
小さなお手々を伸ばしたセナくんを、
そりゃあ軽々、ひょいと抱えた大きなお兄さん。
ヨウイチくんや葉柱さんへ、
それではという会釈だろう、かすかに目顔で目礼寄越すと。
そちら様もまた、この暑いのに
“ダラける”なんてことへは一切縁のなさそな凛々しい足取りで、
さっさかと市民プールのある方へ、歩み去ってしまわれて。

 「………今の、見たか?」
 「……………見てない。」
 「え? あんなくっきり…。」
 「見てないったら見てないっ。」

きいと小さな肩をば いからせて、

  ―― 進が嬉しそうに笑ったなんて、
     そんな天変地異を招きそうなもの、俺は絶対見ちゃいねぇと

ややもするとムキになり、歩幅も広くのたかたかと、
自分たちの本来のお買い物、
さっさと片付けないとと言って聞かない強引さであり。

 “……そこまで人外扱いにしなくとも。”

アメフト以外へは関心寄せず、
トレーニング以外の知識も要らぬと、
ただただ黙々と自身を鍛えることにしか“在れない”男だった、
そんな進だったの、長いこと見て来たお陰様。
いきなりあんな風に、マイホームパパになられてもなと、
混乱を嫌ってのこと、ムキになってるヨウイチくんであるらしく。

 “案外と柔軟性がないんでやんの。”

これだから今時のデジタル世代はよなんて、
そっちはそっちで妙に年寄り臭いことでも思ったか、
ますますのこと苦笑が止まらなかった葉柱のお兄さんを振り返り、

 「ルイ、早くしなっ!」
 「おう、待て待て。」

暑さに溶けちまう何か、買ってから急かされるのならまだしもと、
滅多にない坊やの焦りようにも笑みが込み上げかかるのを、
必死でこらえたお兄さんだったようで。

  かわいい坊や、いい子いい子と抱っこしたくてのこと、
  人性が穏やかになるの、
  なんでそんなに責められるんでしょうかね?
(苦笑)

雑貨屋の軒先でぎあまんの風鈴がちりりんと鳴って、
ねぇ?との相槌、求めているようにも聞こえた、
盛夏の入口、陽射しの目映いとある昼下がりの一景でございました。




  〜Fine〜 10.07.21.


  *お題ものですが、年の差ルイヒルベースなので、
   進さんも大学生ということで。
   高校生ってことにしても話は通りそうなのですが、
   知り合って間のない進さんでは、
   こうまでセナくんと
   息の合った“お遊び”はこなせまいと思いましたので。
(苦笑)

  *それにつけましてもいきなり暑いっ。
   何ですか、南半球じゃあ、
   こっちと逆に
   観測史上初じゃないかってほどの寒気に襲われてるそうで。
   極端から極端へ……。
   やっぱ、地球温暖化による異常気象の一端が
   早々と起き始めているのでしょうか。


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